イスラームの文字模様
モスクをはじめとするイスラームの建築物では、アラビア語の文字が装飾として使われている。ドームやアーチにはっきりと描かれたものから、文字とは分かりにくいものまである。礼拝の場であるモスクでは、イスラームの神であるアッラーや預言者ムハンマド、正統カリフの名前やコーランの章句などが書かれている。シーア派のモスクでは、アリーやファーティマなどシーア派にまつわる人々の名前がよく見られる。
建築物に使われているカリグラフィーは、建築物のテーマに合わせたものや、建築物の時代背景を反映したようなものもある。。幾何学模様や植物模様は、模様それ自体に何か意味合いがあるわけではない。よって、カリグラフィーはモスクについて知るための一種のヒントが隠されていると言えるかもしれない。
イスラームの文字模様
イスラームにおけるカリグラフィー
イスラームにおいて、カリグラフィーは重要な意味を持っている。モスクのカリグラフィーは、ペルシャやトルコ圏であっても、必ずアラビア語で書かれている。ムスリムの人々にとって、アラビア語は神の言葉でもある。単なる言語ではなく、神聖な言語なのだ。ゆえに、アラビア語以外で書かれたコーランは、単なる翻訳書であって聖典とはみなされない。イスラーム美術の世界においても、神の言葉をあつかう書道家は建築や装飾にたずさわる職人とは、一線を画していた。神の言葉を美しく表現する者として、特に高い地位にあった。
コーランの写本では、マグレビー体やヒジャーズ体など地域や時代によって、様々な字体が使われた。一方で、建築装飾においての書体は、文字を書く媒体が紙ではなく、石やレンガ、タイルということもあってか、比較的そうした媒体でも表現しやすいクーフィー体やスルス体といった特定の書体が選ばれている。
古典的な書体、クーフィー体
現在、アラビア語の書体はアッバース朝の書道家イブン・ムクラによって体系化された6つのスタイルがある。イスラーム建築において特に使われてきたのが、クーフィー体である。イラクのクーファの町の名に由来しているとも言われ、アラビア文字においてもっとも古い書体である。同じクーフィー体であっても、植物文様と組み合わせたような書体や高度に抽象化したスクエア・クーフィー体などの種類がある。
書体の種類
クーフィー体の種類
直線を多用し、角ばっているクーフィー体は、レンガや石、木といった素材でも表現がしやすく、建築装飾で多用された。7世紀頃に登場したクーフィー体は、500年以上にわたり使われてきた。しかし12世紀以降は、スルス体やムハッカク体などに置き換えられていく。
スクエア・クーフィー体と呼ばれる四角形の中に書かれた文字模様。高度に抽象化している。
トルコのコンヤにあるインジェ・ミナーレ・マドラサの入り口。中央に、帯状になった浮き彫りのカリグラフィーがある
カイロのスルタン・ハサン・モスク。上部の帯状に書かれているクーフィー体は、最も洗練された文字模様の1つと言われている
スルタン・ハサン・モスクのカリグラフィー
トルコとカリグラフィー装飾
「クルアーンはメッカで啓示され、カイロで読誦され、そしてイスタンブールで書写された」と言われたほど、イスタンブールは書道芸術の中心地でもあった。トルコといえば、イズニックに代表されるような植物模様を多用した装飾のイメージが強いが、トルコのモスクでは書道が盛んな都市ならではの、”書道装飾”が見られる。
例えば、オスマン帝国の古都ブルサの大モスクは、192の書道作品が装飾されており、「アラビア書道博物館」とも呼ばれている。イスタンブールにあるアヤ・ソフィアには、イスラーム世界最大と言われる巨大な8つのメダリオンが飾られている。そこに書かれているのは、イスラームの神アッラー、預言者ムハンマド、4人の正統派カリフ、フサインとハサン、2人の預言者の孫の名である。こうしたメダリオンの装飾は、オスマン帝国時代のモスクならではの特徴で、聖人や12使徒のイコンが描かれたビザンツ教会の影響を受けたのかもしれない。
アヤ・ソフィアにあるメダリオン
イスタンブールのモスクにあるメダリオン
ミンバル(説教台)やミフラーブ(礼拝の方角を示すくぼみ)、壁面などあらゆる場所に カリグラフィーがほどこされたアンカラのモスク
新着記事
人気記事