イスタンブールの新たな名所。トルコ最大のモスク、チャムルジャ・モスク

Çamlıca Camii

私のちっぽけな体は、いつの日か土くれになるだろう。しかし、トルコ共和国は永遠に生きつづける。
––––ムスタファ・ケマル・アタテュルク

チャムルジャ・モスク、イスタンブール、トルコ

これまでイスタンブールの定番名所(モスク)といえば、ブルー・モスクやアヤ・ソフィアだった。しかし、それが変わるかもしれない。イスタンブールのアジア側、ユスキュダル地区の丘に、鎮座するのがトルコ最大のチャムルジャ・モスクである。

モスクがオープンしたのは、2019年のこと。時代区分でいえば現代モスクになるが、その外観はいくつものドームが連なり、えんぴつ型のミナレットが添えられた、典型的なオスマン建築スタイルのモスクである。トルコは世俗国家として知られるが、人口の99%がイスラーム教徒である。ムスリム人口から考えれば、新しいモスクを作ることは歓迎されそうだが、世俗国家トルコにおいては、必ずしもそうではない。宗教施設を作るぐらいなら、別の施設を作った方が良いと考える人も一定数いる。

チャムルジャ・モスク建設に関しても、エルドアン大統領による策略説がささやかれている。オスマン帝国の威を借りて、己の権力を誇示しようというのである。トルコ最大にしてケタ違いのスケールのモスク。権威を誇示するのに、これほど適したものはない。イラクのサダム・フサインもまたバビロニアの王と自分を重ね合わせるなどして、己の権力をアピールするきらいがあった。はたから見れば、ちょっとイタい行為である。ただ、こうした巨大なモスクであるほど、純粋な礼拝の場というより、政治や権力者の思惑が絡んでくることは否めない。独裁傾向のある国ほど、大きな建物を作りたがるのである。

イスタンブールは「7つの丘の都市」とも言われる。7つの丘というのは、ローマの7丘にちなんだもので、ヨーロッパ側にある7つの丘には、オスマン帝国時代の記念碑的な建物が建っている。トプカプ宮殿、アヤ・ソフィア、ブルー・モスクなど、多くが現在は、観光名所となっている。オスマン帝国の為政者たちは、丘から町を見下ろすことで、己の権威に悦に入っていたのだろう。それは、現代において成功者の証としてタワマンに住む人間と、どこか共通しているのかもしれない(ちなみに私は、人は土から離れて生きることはできない派なので、なるべく地面に近い場所に住みたい人間である)。

オスマン帝国の為政者たちは、丘を好立地とみたが、現代のイスタンブール観光をする我々からすれば、いい迷惑である。イスタンブール観光では、丘を登りくだりすることになるので、結構ハードなのである。トルコ最大のチャムルジャ・モスクは、イスタンブールで一番高いチャムルジャの丘に建っている。モスク、丘の規模、そのいずれも偉大なるオスマン帝国時代のモスクを凌駕しているのである。

丘の上に鎮座するチャムルジャ・モスクは、もはや単なるモスクではない。まずそのスケールに圧倒される。礼拝所としては世界最大級の門があり、正門の幅は5メートル、高さは6.5メートル、重さは6トンもある。モスクというより、魔王の要塞。ククルーマウンテンにそびえたつゾルディック家である。

チャムルジャ・モスク、トルコチャムルジャ・モスクの外観

このモスクが面白いのは、様々な点がイスタンブールにちなんでいる点である。例えば、屋根にかかるメインドームは、地上からの高さが72メートルある。この72メートルは、オスマン帝国時代にイスタンブールに住んでいた72の民族に由来する。本当に72の民族が住んでいたのかは定かではないが、最盛期には北はハンガリー、南はイエメンに至るまで広大な地域を支配したことを考えるとうなずける。今も、イスタンブールに住む人々の顔ぶれは、様々である。ヨーロッパ風、中東風、アジア風。イスタンブールのガイドは、それがイスタンブールなんだ!と説明した。

チャムルジャ・モスク、トルコ中央にそびえるのがメインドーム

チャムルジャ・モスクミナレットミナレット

チャムルジャ・モスクモスクは巨大すぎるため入り口を探すのにも一苦労である。

礼拝の合図を告げるミナレットの高さは、107.1メートルある。中途半端な数字に見えるが、ここにも重大な意味が隠されている。オスマン帝国の前身であるセルジューク朝軍がビザンツ帝国に対し勝利をおさめたのが、1071年のマンジケルトの戦いである。さらに、第2のドームの直径は34メートル。34はイスタンブールの車のナンバープレートの番号である。最後だけ、こじつけでショボいような気もするが・・・

モスクの下駄箱スペースを歩く猫。イスタンブールでは猫が異常なほど大切にされており、モスク内も含め町のいたるところに猫がのさばっている。モスク内は靴を脱いで入るので、このような下駄箱を設置しているモスクもある。

モスク内は、絨毯から天井のドーム、ミフラーブにいたるまで、ブルーを基調としておりまるで海の中にいるような気分になる。まるで海物語モスクである。特にモスクを幻想的に仕立てあげているのが、モスクの四方に囲むステンドグラス。イランでよく知られているピンク・モスクを想起させる。

チャムルジャ・モスク 6.3万人を収容できるモスク。東京ドームよりもその人数は多い。

チャムルジャ・モスク
礼拝の方角を示すくぼみ、ミフラーブ 。多くのモスクは2メートル前後だが、巨大モスクとあってかミフラーブのスケールもメガトン級である。

チャムルジャモス装飾モスクの扉。5角形と10角形の幾何学模様が合わさり複雑な模様を作り出している。

チャムルジャモスク室内を彩るステンドグラス

チャムルジャモスクステンドグラス幾何学模様が描かれたステンドグラス

チャムルジャ・モスクドームメインドームの装飾。中央にはイスラームの神の名前が書かれ、その周りには、神の美名が書かれたカリグラフィーが囲っている。

中央にあるメインドームには、99あるうちの16のイスラームの神の美名が刻まれている。16は、ガズニー朝やウイグル・ハガネート、オスマン帝国などトルコ族がこれまでに建国してきた国の数に由来している。これは16トルコ大帝国とも呼ばれ、トルコ各所でこれら帝国の創設者の胸像や肖像画が飾られている。

観光客があまり訪れない立地条件と、オープンして数年しか経っていないということから、観光客というよりジモティーの憩いの場になっているように見えた。しかし、モスクのスケールと美しさを考えれば訪れるべき価値は存分にある。