ハミディエモスク、クルシェヒル、トルコ、現代
特定のテーマを追求することで、他のカフェとの差別化をはかる「コンセプトカフェ」という言葉がある。それはモスクにも当てはまるかもしれない。トルコ中央部の都市カイセリから、西のアンカラ方面へバスで約2時間。クルシェヒルという人口10万人ほどの小さな町の住宅街にひっそりと立つのがハミディエモスクである。歴史的に重要なモスクというわけではない。ただ、あまりにもモスクらしからぬ空間だ!ということで、トルコ国内をざわつかせたという。
モスクの前身は、オスマン帝国のアブデュルハミト2世の時代、1910年代に作られた。荒廃がひどく今の形に建て替えられたのが2016年。モスクの装飾を担当したのは、アゼルバイジャン出身の建築家である。
問題のモスク内なのだが、建物に入ったつもりが森に来てしまったのではと錯覚してしまう。そう、ハミディエモスクは、森をコンセプトにしたコンセプトモスクなのである。一見すると、単なる森のような空間を作ったのだろう、と思う。しかし、ここはあくまでもイスラーム教徒が礼拝をするモスク。コンセプトや装飾に、イスラーム教とのつながりがある。ハミディエモスクの森空間は、コーランのバカラ章22節を再現した空間に仕上がっている。イスラーム教徒にとってみれば、森のような緑にあふれる空間は天国のイメージとつながるところがある。イスラーム教は砂漠地帯であるアラビア半島で生まれ、しばしば「砂漠の宗教」とも呼ばれる。オアシスはあれども、基本的には砂漠に囲まれている。自然豊かな日本やトルコからすればなんてことはないが、青々と生い茂る草木やこんこんと湧き出す水は、砂漠の民の憧れである。
ミフラーブに見立てた滝の絵画の中央にはイスラーム教の神、アッラーの文字がアラビア語で描かれている。芝生色と土色のカーペットは大地を表現。天井からは、オレンジ色の照明が太陽のごとく輝いている。後部の天井壁画には、たわわに実るぶどうが描かれいる。森という空間を作り上げるのに一切の妥協を許さない。このモスクには、砂漠の民が憧れがつまっていた。
参考資料
https://ilmfeed.com/youve-probably-never-seen-masjid-like-this/