シェイク・ザイード・モスク、アブダビ、UAE
観光アトラクションと化しているモスクがUAEの首都アブダビにある。UAE建国の父シェイク・ザイードの墓廟でもあるシェイク・ザイード・モスクは、旅行者に人気のサイトトリップアドバイザーで、旅行者に人気の観光スポットとしても選ばれた。
2020年の発表によれば、モスクの年間訪問者数は660万人。そのうち410万人が観光目的で訪れたという。モスクを訪問者の2人1人が観光客であり、観光地としての人気ぶりがうかがえる。訪問国別に見ると、2大トップがロシアと中国で、いずれもイスラームとはあまりなじみのない国の人々である。訪問者数が年々増加することで、モスクは短期間のうちに観光客のための通路整備や入場券の発行などが行われてきた。時にはモスクに入るのに、2時間近く並ぶこともあった。ディズニーのアトラクションさながらである。礼拝の場というよりも礼拝ができる観光アトラクションになりつつある、というのが、2015年から2019年にかけて毎年モスクを訪れた私の印象である。
ハリウッドセレブも含め、世界中の旅行者をひきつけるこのモスクは、あらゆる点において豪華絢爛である。そして、世界中のイスラーム美術の結集とも言える。世界最大の大きさを誇るペルシャ絨毯。天井にはスワロフスキー使用のシャンデリア。トルコのイズニク風タイルの装飾。コルドバのメスキータを連想させる馬蹄形アーチ。象嵌細工の花が咲き誇る回廊。タージマハルを思わせる白亜のドーム。モスクの入り口付近にあるプールは、清涼感を醸し出している。ここが砂漠の国であることを忘れさせるのに十分な演出である。
砂漠気候でありながら、”砂漠感”を感じさせない空間を演出するには、莫大な労力と資金がかかる。40度越えの日々が続くのに対し、年中建物の中をキンキンに冷やしたり、街中には青々とした芝生や”年中枯れない”花(これだけ暑くて雨がほとんど降らない気候なのに、町には綺麗な花がいつも咲き誇っている。その理由は頻繁に花を植え替えているからである)が植え付けられ、豊かな富豪の国を演出している。これらを可能にしたのが、オイルマネーによる巨万の富である。
UAEを含む湾岸諸国は、20世紀になって建国した国がほとんどで、しばしば国の伝統や文化がないと言われる。あるのは砂漠の遊牧民としての伝統文化である。確かに、このシェイク・ザイード・モスクの建築や装飾に、”UAEの伝統”は見当たらない。しかし、ここにはあらゆるイスラーム世界の美術が結集している。モスクだけに限らない。ルーブル・アブダビ美術館、アブダビの国家宮殿も同様に、よそ様の美術で彩られている。こうした現象を「文化や芸術をお金で買う」と冷ややかに見る意見もある。しかし、寄せ集めだろうが、世界中の人々を魅了していることには間違い無いのだ。世界の美を結集させる力。この結集力こそが湾岸諸国の力なのかもしれない。
参考資料
深見奈緒子、イスラーム建築の織りなす世界 多様性と共通性、季刊民俗学(39)、p93-111、2015